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2025年6月10日

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通勤定期10%、普通運賃11.9%の値上げで西武鉄道が挑む400億円設備投資の実現

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「西武鉄道株式会社からの鉄道の旅客運賃の上限変更認可申請事案」に関する答申について(国交省)

2025年6月10日、国土交通省は、西武鉄道株式会社から提出された鉄道の旅客運賃上限の変更認可申請について、運輸審議会が「申請どおり認可することが適当」とする答申を行ったことを正式に発表しました。この申請は、旅客数の減少や設備更新の必要性、昨今の物価高などを背景に、西武鉄道が持続可能な鉄道運営を目指すために提出されたものです。今回の決定により、西武鉄道は平均で10.7%の運賃改定を実施することになります。

この運賃改定の背景には、コロナ禍による利用者数の急減と、それに伴う経営環境の悪化があります。西武鉄道は東京・埼玉エリアにおいて、池袋線や新宿線をはじめとする12路線、総営業キロ数176.6kmに及ぶ鉄道ネットワークを展開しており、年間の輸送人員はコロナ前で約6.6億人にも達していました。しかし、パンデミックの影響で2020年度には輸送人員が約4.7億人にまで落ち込み、営業損益も約250億円の黒字から一転して約36億円の赤字を計上しました。このような状況に直面した同社は、当初計画していた設備投資の拡大方針を見直し、安全を最優先にしながら投資を大幅に抑制することを余儀なくされました。また、役員報酬や従業員賞与の削減など、経費の削減にも踏み切りました。

その後、需要は徐々に回復してきたものの、コロナ前の水準には戻らず、2023年度の輸送人員は約5.9億人と依然として減少傾向が続いています。特に通勤定期旅客数は、2018年度比で82.6%にとどまっており、テレワークやオンライン会議の定着といった新しい生活様式が影響していると見られます。このような利用者動向を受けて、西武鉄道は今後も需要が完全には回復しないと予想しています。

それでも、西武鉄道は老朽化した設備の更新や、ホームドアの整備、連続立体交差事業の推進、さらには環境負荷の低減といった公共交通機関としての社会的役割を果たすための投資を継続的に行う必要があります。そのため、年間約400億円規模の設備投資を計画しており、それに伴う減価償却費は2023年度と比べて約56億円増加し、平均で236億円に達すると試算されています。

さらに、物価上昇の影響を受けて、電力費や人件費も増加しており、労働環境改善のための施設整備も避けては通れない課題となっています。これらの状況を踏まえ、持続可能な鉄道経営を実現しつつ、引き続き良質なサービスを提供するために、西武鉄道は今回の運賃改定を申請しました。

具体的な改定内容としては、普通運賃は平均で11.9%、通勤定期は10.0%、全体では10.7%の引き上げとなります。一方で、通学定期の運賃は据え置かれ、学生の通学負担に配慮された形となっています。また、これまで加算されていた「鉄道駅バリアフリー料金」は今回の改定に伴い廃止される予定であり、利用者への影響を最小限に抑える努力もなされています。

今回の運賃改定により、平年度(令和8年度から令和10年度)には、総収入が年平均で約117億円増加すると見込まれていますが、それでも適正な原価と利潤を合わせた総括原価に対しては約74億円の不足が見込まれており、改定後の運賃でも完全な収支均衡には至らないことが示されています。このことからも、同社が安易な値上げではなく、持続可能な鉄道経営を前提とした慎重な判断のもとで申請を行ったことが読み取れます。

運輸審議会は、公聴会の開催や現地視察、各方面の意見聴取を経て審議を進め、最終的に「申請どおり認可することが適当である」との答申を行いました。同時に、需要予測と実績が乖離する可能性に言及し、今後の対応において期限付き条件の検討を求める要望も盛り込まれました。また、同社の黒字経営や社会的使命を踏まえ、今回の運賃改定が公共交通の持続性やサービス向上に資するものであることを、利用者に丁寧に説明するよう指導・助言することも併せて要請されました。

このように、今回の西武鉄道による運賃改定は、単なる値上げではなく、アフターコロナ時代の新たな需要構造への対応と、公共交通としての社会的責務を果たすための重要なステップとして捉えられています。企業としての持続可能性と利用者サービスの両立を目指した取り組みは、他の鉄道事業者にとっても大きな参考になる事例といえるでしょう。

⇒ 詳しくは国土交通省のWEBサイトへ

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