2025年8月13日
労務・人事ニュース
33年ぶりの賃上げでも消費は伸び悩み、家計の消費性向が2024年に再び低下
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最終更新: 2025年8月13日 23:32
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令和7年度経済財政白書 第2章 賃金上昇の持続性と個人消費の回復に向けて 第1節 個人消費の回復に向けて(内閣府)
この記事の概要
政府の報告によれば、2024年度の賃金上昇は33年ぶりの高水準となり、2025年度もその傾向が続いているにもかかわらず、個人消費は思ったほど回復していない。物価の上昇や将来不安の影響が根強く、消費者は支出を控える傾向にある。特に継続的な賃金の増加が消費回復の鍵であり、政府と企業が賃金上昇の実現とその定着に向けた対策を講じる必要がある。
2024年度の日本経済において、賃金の上昇は過去33年間で最大の伸びを記録し、特に春季労使交渉で示された賃上げ率は歴史的な水準に達した。フルタイムおよびパートタイム労働者を問わず、賃金は1994年以降で最も大きく上昇し、2025年度もその流れが継続している。しかし、こうした賃金の上昇にもかかわらず、個人消費は想定ほど回復していない。所得環境が好転している一方で、物価の高騰や将来に対する不安などが消費者マインドを押し下げており、消費の伸びは賃金の上昇に追いついていない状況である。
とくに、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、勤労者世帯の消費行動には大きな変化がみられた。内閣府が実施した「家計の消費・貯蓄行動に関する調査」によると、平均消費性向(消費支出/可処分所得)はコロナ前の水準をいまだに下回ったままであり、2024年には再び低下傾向にあることが明らかになっている。とくに二人以上の勤労者世帯では、所得が増加しているにもかかわらず、消費支出の増加は非常に限定的である。これは、単なる収入の増加では消費行動の変化を引き出せないことを示している。
背景には、「恒常所得仮説」と呼ばれる理論が関係している。これは、家計が一時的な所得の増加ではなく、将来的にも安定して続く所得の増加が見込まれる場合にのみ消費を積極的に行うという考え方である。実際に調査でも、継続的な給与の増加がある場合には消費を増やすと答えた人が多かったが、一時的なボーナスや給付金の増加ではそれほど消費が増えないことが確認された。
また、消費者の節約意識は依然として高く、食費や外食、衣類、レジャーといった日常的な支出を抑える傾向が強まっている。特に高齢層ではこの傾向が顕著であり、支出の増加に対して慎重な姿勢が続いている。一方で、若年層では食費や衣類などに対する支出意欲が比較的高く、潜在的には消費意欲を持っていることも確認されている。これは、将来的な収入への期待が影響していると考えられるが、その一方で「今と変わらない」あるいは「将来減少する」と答える人も多く、消費の回復には至っていない。
加えて、リカード・バローの中立命題という経済学上の理論によれば、減税や給付金による手取り収入の増加が必ずしも消費を刺激するとは限らないとされている。これは、家計が将来の増税を見越して貯蓄に回すという行動をとる可能性があるためである。今回の調査でも、給料増加よりも減税による手取り増の方が消費に与える影響は小さい傾向がみられた。
その一方で、企業側の見通しに目を向けると、2025年度に賃上げを実施予定の企業のうち、およそ3分の2が今後5年間にわたって毎年賃上げを行えると回答している。これは中小企業を含めた結果であり、企業側にはある程度の賃上げ継続意欲が存在する。しかし、家計側はそれを十分に信じ切れておらず、持続的な賃上げが実現するという確信を持てていない。結果として、消費は慎重な姿勢が続き、平均消費性向は低下したままである。
さらに、支出の使い道について見てみると、所得が3%増加した場合に最も支出を増やしたいとされたのは「食費(外食以外)」で、次いで「旅行やレジャー」が続く。これは、物価上昇の影響を最も感じている分野であることを反映しており、支出を抑えている一方で、本来であれば消費を増やしたい分野であることが浮き彫りになっている。
個人消費を本格的に回復させるためには、賃上げそのものの継続だけでなく、それが持続可能であるという安心感、つまり所得が将来にわたって増加するという確信を消費者に与えることが鍵となる。また、社会保障の充実や雇用の安定なども重要であり、これらの要素が複合的に整って初めて消費は安定的に増加していくと考えられる。
今後の経済政策においては、単発的な所得支援策よりも、賃金上昇の継続性を確保する制度設計や、家計の将来不安を解消するための社会保障の強化など、より長期的な視点からの対策が求められている。政府と企業が連携し、国民の賃金上昇に対する信頼を築くことが、日本経済の持続的成長のために不可欠である。
この記事の要点
- 2024年度の賃金上昇は過去33年で最高水準
- 賃上げにもかかわらず消費は限定的にしか回復していない
- 恒常所得の増加が消費を刺激する重要な要素
- 物価上昇や将来不安が消費者マインドを抑制
- 企業は賃上げの継続意向を示すも、家計は信頼を持てず
- 若年層は比較的支出意欲が高いが、将来の収入増加に確信を持てない
- 食費や旅行など、支出を抑えている分野にこそ潜在的な需要がある
- 一時的な給付金よりも継続的な給与増が消費を促進
- 社会保障や雇用の安定も消費回復に必要な要素
- 政府と企業の連携による所得の持続的向上が経済成長の鍵
⇒ 詳しくは内閣府のWEBサイトへ