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2025年5月10日

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九州・沖縄で価格転嫁率88%超、地方企業の賃上げ姿勢が鮮明に

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地域課題分析レポート-地域における賃金の持続的な上昇に向けて- 第2章 地域間の賃金水準や賃金上昇の違いの背景(内閣府)

2025年における日本の地域経済は、多くの側面で転換点を迎えており、とりわけ賃金水準やその上昇率に関して、地域間で顕著な差が生じています。この違いの背景には、企業を取り巻く事業環境の変化、価格転嫁の進展状況、労働市場のミスマッチの程度、そして公的部門の比率や対応といった多層的な要因が複雑に絡み合っています。これらの要素を多角的に把握することで、地域ごとの人材戦略や賃金設計に活かせる知見が得られることから、本稿ではその詳細を丁寧に解説していきます。

まず、企業の事業環境を示す業況判断に注目すると、コロナ禍以降の回復傾向が顕著であることが分かります。日本銀行が実施する短観調査によると、2025年3月時点では、北海道や九州・沖縄をはじめとする多くの地域で業況判断DIがプラスに転じており、コロナ禍前の水準にほぼ戻っています。非製造業の回復が特に目立ち、観光需要の回復を背景に飲食・宿泊業が大きく牽引していることも特筆すべき点です。一方、製造業は回復が遅れた地域もありますが、2024年以降は東北を含め改善の兆しが見られるようになりました。これは、電気機械や汎用機械など一部業種の復調が要因となっており、今後の生産活動の本格化が期待されています。

こうした業況改善に伴い、企業が原材料費や労務費の上昇を価格に転嫁する動きが活発化しています。とりわけ2023年以降は、仕入価格と販売価格のDI差、いわゆる「疑似交易条件」が改善傾向にあり、企業の価格転嫁行動が以前と比べて前向きに変化していることが明らかとなっています。たとえば、2021年から2022年にかけて、東北や北陸、四国ではDI差がマイナス50を超えるほど悪化していましたが、2025年3月時点ではほぼ2021年と同水準まで回復しました。さらに、南関東、東海、近畿、中国などでは、2021年よりも良好な水準に達しており、企業が価格交渉力を強めている状況が読み取れます。

一方で、価格転嫁の実態には地域差があるのも事実です。2025年2月に実施された民間調査では、価格転嫁率が「8割以上できた」と回答した企業の割合が全国的に10%台にとどまる中、中国・四国地域ではさらに低い水準にあることが確認されています。また、価格転嫁が「5割以上できた」とする企業の割合も、中部や近畿では35%を超えたのに対し、他地域では30%前後にとどまっています。このような転嫁状況の差は、賃上げの実施率にも影響を与えており、価格転嫁率が高い地域ほど、賃上げを積極的に実施する傾向が強いとされています。

さらに、公正取引委員会の調査によると、労務費の価格転嫁率は2023年度の45.1%から2024年度には62.4%へと大幅に改善しました。これは、2023年11月に公表された「労務費転嫁指針」の周知と企業への働きかけが功を奏した結果とみられます。しかしながら、サプライチェーンの下位に位置する2次受注や3次受注企業では、依然として転嫁率が50%未満にとどまっており、構造的な課題の解消には更なる支援が必要とされています。

労働市場に目を向けると、全国的に人手不足が進行しており、それが賃金上昇の大きな要因の一つとなっています。労働需給のミスマッチを示すUV曲線に基づいた分析では、2024年時点でほとんどの地域が2012年と比較して右下方向に移動しており、失業率の低下と欠員率の上昇を同時に経験していることが分かります。特に東北や北関東・甲信、北陸では、欠員率の上昇が失業率の低下に追いついておらず、結果として原点に近づいている、すなわちミスマッチが縮小していると評価されます。

このようなミスマッチ縮小の背景には、入職経路の多様化が挙げられます。たとえば、民間職業紹介や広告経由での就職者割合は、2012年から2023年にかけて全国平均で7.1%ポイント上昇しており、特に東北や北関東・甲信、北陸では全国を上回る増加率が確認されています。この傾向は、地域における雇用のマッチング効率が向上していることを示唆しており、地域別の人材確保戦略にも大きな示唆を与えるものです。

また、賃金上昇と企業の設備投資の関係も注目に値します。賃金の上昇圧力が強まる中で、企業は省人化や業務効率化を目的としたソフトウェア投資を加速させており、特に北海道と九州では、2022年から2024年にかけてソフトウェア投資の累積指数が15倍以上と急増しています。これは、半導体製造業などの進出により、デジタル化が地域経済にもたらすインパクトが大きくなっていることを意味しており、企業の成長戦略とも密接に関連しています。

加えて、公的部門の役割も見逃せません。就業者全体に占める公的部門の比率は全国平均で約30%ですが、沖縄県では約40%と極めて高く、医療・福祉分野が17%を占めるなど、地方ほどその比重が大きい傾向にあります。また、雇用者報酬に占める公的部門の割合も沖縄では52%と非常に高く、地方において公的部門の動向が地域経済や賃金に与える影響は非常に大きいといえます。

地方公務員の給与改定率も過去2年間と比較して大きく上昇しており、たとえば2024年度の月次給与の改定率は北海道で3.01%、千葉県では3.30%と高水準です。しかし、民間企業の平均賃上げ率3.56%を下回る結果となっており、民間とのバランスを意識しながらも公的部門の賃金改定には一定の制約があることが見て取れます。また、会計年度任用職員の賃金水準も最低賃金に近い層が存在するなど、課題が残されています。

これらの要因を総合的に踏まえると、地域ごとの賃金水準やその上昇率には、価格転嫁力、労働市場の構造、産業構成、さらには公的部門の影響といった多様な要素が密接に関わっていることがわかります。採用担当者にとっては、地域ごとの人材戦略や報酬制度の見直しを図る上で、こうした背景の理解が極めて重要です。

⇒ 詳しくは内閣府のWEBサイトへ

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