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2025年4月30日

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トラック・バス・タクシー運転者の時間外労働規制で見えた業界の人手不足と対応策

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労働政策レポートNo.15 時間外労働の上限規制への対応 ―自動車運転の業務に従事する労働者を対象に―(JILPT)

2024年4月に施行された自動車運転業務に従事する労働者に対する時間外労働の上限規制は、物流、バス、タクシーといった輸送業界に大きな変革をもたらした。この改正労働基準法および改善基準告示により、運転者の労働時間が明確に制限され、企業にはそれに適応するための対応が求められている。特に拘束時間や休息時間、休日の確保などのルール遵守が義務化されたことで、業界全体において労働時間の適正化が急務となっている。

今回の調査では、物流業4社、バス会社2社、タクシー会社2社の合計8社を対象にヒアリング調査を実施し、それぞれの企業がどのように新たな規制に対応したのか、またその過程で直面した課題とその解決策について明らかにされた。対象企業の多くは全国規模で展開する大手企業であり、労働組合も組織されている。このことから、制度上の整備や社内合意形成のプロセスがある程度成熟している状況での事例分析となった。

まず、企業が行った主な対応としては、輸送ルートの見直しが挙げられる。これはすべての物流企業で実施されており、配送の効率化を目的に荷降ろし先の集約や中継輸送の導入などが行われた。これにより、トラック運転者の拘束時間を1日の制限内に収める工夫がなされ、業務の再構築が図られた。また、荷主に対して待機時間の短縮や配送スケジュールの見直しを要求し、協力を得ることで業務の効率化と労働時間の抑制に成功した企業もあった。

一方で、規制遵守に際しては複数の課題も顕在化している。特に連続運転時間に関する課題は、道路渋滞や悪天候など外的要因によって発生しやすく、規定時間内に業務を終えることが難しい場面もあった。さらに、拘束時間や休息時間、休日の確保といった新しい基準に対応する中で、実際の勤務実態との乖離が問題となり、労使間での調整が求められた。バス会社F社では深刻な人手不足から、36協定に定めた月70時間を超過する残業が常態化するなど、運行維持と規制遵守の間でジレンマが発生している。

調査では、特に人手不足が長時間労働の是正を妨げる根本的な要因となっていることが明らかになった。多くの企業では、残業がある程度前提となっており、それが給与水準を支える構造になっているため、単純に労働時間を削減することが賃金の減少につながり、結果として離職を招くという悪循環に陥っている。特にタクシー会社では、営業成績を優先するドライバーが拘束時間や休息時間を守らずに働いてしまう例も報告されており、企業単体での対応には限界があることが浮き彫りとなった。

企業がこうした状況に対応するためには、業務設計の見直しだけでなく、働き方そのものを再定義する必要がある。調査企業の中では、エリアごとに休憩所を整備し、業務終了後に他エリアからの応援を可能にすることで業務の平準化を図るなど、実践的な取り組みを進めている例もあった。このような施策は、従業員の働きやすさを高めると同時に、長時間労働の抑制にもつながる有効な方策である。

また、調査対象の多くの企業において、労働組合は労働時間規制の遵守に重要な役割を果たしていた。定期的な労使協議の場では、従業員の労働時間を確認し、課題があればその場で解決策を検討するという仕組みが整っていた。しかしながら、労働時間短縮という観点では、組合の貢献は限定的であり、時間外労働の上限に近い36協定を締結している企業が多いという現状も指摘された。加えて、日本の労働組合全体の組織率が約16%と低下傾向にあることから、規制遵守や改善提案を行う主体としての影響力には限界があるとも考えられている。

今後の課題としては、企業単独では対応が困難な構造的問題、特に業界全体に共通する人手不足と低賃金の問題に対し、政策的な介入が不可欠である。たとえば、自動車運転者を対象とした処遇改善補助金制度の導入や、運賃・料金の適正化に向けた荷主・顧客との合意形成が求められる。物流業のような下請け構造が強い業界では、発注側が適正な取引条件を設定することで、協力会社における労働環境の改善が進み、ひいては業界全体の健全化にもつながる。調査企業の中では、荷主への要望を実現させた例も見られ、その背景には物流機能の停止が企業存続に直結するという共通認識があったと考えられる。

まとめると、今回の調査から明らかになったのは、労働時間規制の施行が企業経営や業務運用に多大な影響を与えている一方で、それが業務効率化や労働環境の改善を促進するきっかけにもなり得るという両面性である。今後の政策形成においては、規制遵守だけでなく、その先にある労働者の健康や企業の持続可能性といった視点を取り入れた包括的な支援策が求められる。

⇒ 詳しくは独立行政法人労働政策研究・研修機構のWEBサイトへ

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