2025年5月18日
労務・人事ニュース
雇調金コロナ特例の受給事業所は約59万件、最多は宿泊・飲食業で4割超
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最終更新: 2025年5月18日 03:08
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最終更新: 2025年5月18日 10:15
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記者発表『「雇用調整助成金のコロナ特例に関する効果検証」結果(速報版)』(2025年5月12日)(JILPT)
新型コロナウイルス感染症が日本社会にもたらした影響は計り知れず、企業活動や雇用環境に多大な打撃を与えました。こうした状況下において、雇用の安定を守るために政府が講じた最も大規模な施策のひとつが「雇用調整助成金(雇調金)」のコロナ特例措置です。令和7年5月に労働政策研究・研修機構(JILPT)から発表された効果検証の速報版によれば、今回の特例措置はリーマンショック時を上回る規模で運用され、全国で約59万事業所が受給したことが明らかとなりました。これは、2020年の雇用保険適用事業所のうち約18%が、2021年で約14%、2022年で約10%が雇調金を受給していたことを意味し、2008年のリーマン期の5%を大幅に超える水準でした。
特に宿泊業や飲食サービス業といったサービス業では約4割の事業所が雇調金を利用し、生活関連サービス業、娯楽業、製造業、運輸業、郵便業でも約3割と高い利用率を示しました。これらの数字から見ても、雇調金がいかに広範囲な産業で活用されたかが伺えます。加えて、非正規雇用者の雇用維持を目的に設けられた「緊急雇用安定助成金(緊安金)」についても約24万事業所が利用しており、正規・非正規を問わず、雇用の下支えに貢献していたことがうかがえます。
今回の効果検証では、コロナ特例措置が雇用維持においてどのような実効性を持ったのかについて、統計的手法を用いた精緻な分析が行われました。その結果、雇調金には一定の雇用維持効果が認められ、特に緊急事態宣言などの初期段階においては、失業の急増を抑制する役割を果たしていたことが明らかとなりました。たとえば、コロナの影響が大きかった宿泊業や飲食業では、受給事業所の生存確率が85〜90%と高く、倒産や廃業を防ぐための重要な手段となっていたことがわかります。ただし、受給が長期化するにつれてその効果は次第に薄れ、むしろ再就職の遅れや生産性の低下といった副作用も指摘されています。
また、注目すべきは、教育訓練に関する助成の活用状況とその効果です。雇調金による教育訓練は、コロナ初期の段階で実施された場合には雇用維持に対する一定の効果が見られましたが、遅い段階での実施や長期間の訓練には明確な効果が確認されず、結果として限定的な効用にとどまったと報告されています。これは、受給期間中の入職率や純雇用増加率にはプラスの影響が見られたものの、受給終了後には雇用の回復力が鈍化する傾向があることと関係しており、政策設計の難しさを物語っています。
さらに、受給事業所から離職した労働者の再就職状況についても興味深いデータが示されました。統計モデルによる分析では、受給事業所の離職者は非受給事業所の離職者に比べて再就職までの期間が長く、再就職率にも差が生じていたことが明らかになりました。この結果は、休業や雇用調整が長引いたことによるスキルの劣化やモチベーションの低下、あるいは人材としての市場価値の一時的な低下が影響している可能性があります。実際、受給事業所の多くが休業期間中に「従業員のモチベーションの低下」や「生産性の低下」といった課題を抱えていたことがアンケート結果からも裏付けられており、長期的な観点からみると支援の在り方に再考の余地があることを示唆しています。
一方、緊急雇用安定助成金については、その制度趣旨からしても中小規模の企業にとって重要な支えであったことに疑いはありませんが、雇調金と比べて雇用維持効果はやや弱く、特に制度自体の周知が十分でなかったことが課題として浮かび上がりました。非正規雇用の離職率が高かった背景には、この制度の活用不足が一因となっている可能性があり、今後同様の緊急支援策を講じる際には、対象者への的確な情報提供と制度設計が求められます。
このように、雇調金のコロナ特例措置は一時的な経済ショックに対して迅速に対応する手段として一定の成果を上げた一方で、長期的な運用や制度設計の観点では課題も明らかになりました。今後の政策においては、雇用維持という短期的目標だけでなく、労働者の中長期的なキャリア形成や企業の持続的成長を見据えた支援策への転換が必要となります。また、デジタル化による手続きの簡素化や迅速な支給体制の整備、さらには不正受給防止のための仕組みの強化など、制度運用面での見直しも求められています。
現在、労働市場はポストコロナの時代に突入しつつあり、採用環境も大きく変わりつつあります。そうした中で企業の採用担当者にとって重要なのは、過去の政策の成果と限界を正しく理解し、自社の採用戦略や人材育成施策にどう活かすかを見極めることです。今回の検証結果から得られる知見は、単なる一時的な助成金制度の評価にとどまらず、日本全体の雇用政策や企業の人材マネジメントのあり方に一石を投じるものとして、極めて意義深いものだと言えるでしょう。