2025年6月9日
労務・人事ニュース
2040年に高齢者人口がピーク到達、民間企業と自治体が連携する新戦略「産福共創」の全貌
- 介護職員/お多福来。/福岡県/朝倉市/久大本線/筑後吉井駅
最終更新: 2025年6月9日 11:01
- 看護師/福岡市城南区/福岡県/福大前駅
最終更新: 2025年6月9日 05:13
- 看護師/糟屋郡宇美町/福岡県/他
最終更新: 2025年6月9日 05:13
- 看護師/福岡県/北九州市小倉南区/下曽根駅
最終更新: 2025年6月9日 11:01
「高齢者・介護関連サービス産業振興に関する戦略検討会」の取りまとめを行いました(経産省)
2025年5月28日、経済産業省は「高齢者・介護関連サービス産業振興に関する戦略検討会」の取りまとめを公表しました。これは、我が国が直面する深刻な高齢化社会の課題に対して、介護と産業振興を両立させる新たな視点での戦略的対応を目的としたものです。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者層へ突入する2025年から、65歳以上の人口がピークに達する2040年までの15年間は、日本にとって極めて重要な移行期間とされており、この期間中に持続可能な介護サービスの供給体制を整備することが急務です。
今回の取りまとめでは、高齢者・介護関連サービスを単なる福祉の枠組みで捉えるのではなく、地域に根差した成長産業として展開していくことが提唱されました。特に注目されるのが「産福共創」という新たなコンセプトです。これは、産業と福祉の融合を目指し、地域課題の解決と事業の収益性を両立させるものであり、民間企業と自治体、福祉関係者が連携して、地域の高齢者にとって真に価値あるサービスを生み出していく取り組みです。単に介護を提供するだけでなく、高齢者のQOL(生活の質)を向上させ、地域社会全体の活性化にも資する仕組みとして期待されています。
検討会の議論では、具体的な戦略として三つの柱が示されました。まず一つ目は、民間企業との連携に対する自治体のインセンティブと体制の強化です。多くの自治体では民間との協働に対して制度的なハードルや知識不足が存在し、それが新たなサービス導入の障壁となっています。これを克服するために、民間との連携に積極的な自治体には国が伴走支援を行い、連携促進の仕組みを整備していくことが重要とされました。
二つ目は、先進的な「産福共創」モデルの創出・評価・普及です。市場性の高い都市部では新規性のあるサービス開発が先導的に行われる一方、中規模都市では地域資源を活用したモデルが、そして中山間地域では必要性の高いサービスを維持するモデルが提案されています。これらは、サービスの受け手としての高齢者のみならず、担い手となる地域住民や企業にとっても新たな可能性を広げるものです。
三つ目の柱は、サービス提供に関する周辺環境の整備です。高齢者やその家族は、情報アクセスや費用負担など多くの障壁を抱えており、民間サービスの導入を支える情報提供チャネルや支援体制の整備が欠かせません。例えば、ケアマネージャーや地域包括支援センターといった専門職が、民間サービスの価値を正しく理解し、推奨できるようにすることが求められています。
また、この戦略には産業振興としての意義も明確に示されています。高齢者向けの新しいサービスやプロダクトの開発は、AIやIoTなどの先端技術との親和性が高く、テクノロジー産業との相乗効果が期待されます。認知症の早期診断や健康管理に活用されるPHR(パーソナルヘルスレコード)など、既に具体的な事例も多数存在しており、これらを地域に実装することによって新たなビジネスモデルの創出が可能になります。
さらに重要なのが、仕事と介護の両立に向けた取り組みです。日本では、働きながら家族を介護する人の割合が増加しており、その支援が社会全体の生産性に直結する課題となっています。介護サービスの選択肢が広がり、介護者本人が安心して仕事に集中できる環境を整えることが、企業活動の継続性にも大きく寄与します。
地域ごとの特性にも注目が集まりました。市場性の観点から、人口密度と地域資源の充足率によって地域を「高」「中」「低」の三分類に分け、それぞれに適したアプローチが整理されています。たとえば、人口密度が2000人/km²以上で地域資源が80%以上整っている「高」市場性地域では、外部からの新規参入が見込めるため、革新的なモデルの開発が可能です。一方で、中山間地域などの「低」市場性地域では、民間ビジネスだけでの成立が難しく、公的支援や住民互助の仕組みと連動することが求められています。
今回の取りまとめは、単なる理論にとどまらず、今後の国の施策や予算措置にも直結する実践的な戦略の土台となります。民間企業の役割も大きく、既存の業態に新たな福祉的視点を取り入れることにより、顧客価値の向上や新規市場開拓といった経営上のメリットを得ることができます。特に企業の人事・採用担当者にとっては、こうした新規事業や社会貢献的取り組みに従業員が関与することが、エンゲージメント向上や離職率低下につながる重要な施策として位置づけられるでしょう。
社会全体として高齢化の進展に対応するためには、単なる制度整備ではなく、企業や地域社会の主体的な関与が不可欠です。この「産福共創」をキーワードとした新たな戦略が、日本の高齢社会を支える次の一歩となることが期待されています。
⇒ 詳しくは経済産業省のWEBサイトへ