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2025年7月19日

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アメリカでは最大週給の66%を支給、労災遺族年金における性差撤廃が1980年に確定

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諸外国における労働者災害補償保険の遺族補償年金に関する調査 ―アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス―(JILPT)

2025年7月4日に発表された「資料シリーズNo.293」は、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスの4か国を対象に、それぞれの労働者災害補償保険制度における遺族補償年金の仕組みを調査し、日本の現行制度と比較することで、今後の制度改善に資する視点を提供することを目的としています。本研究では、特に性別による受給要件の差異に焦点が当てられ、日本の制度設計におけるジェンダーの偏りと、それに対する諸外国の対応策に関する実証的な考察が行われています。

現在の日本の労災保険制度においては、被災者である妻の死亡時に、夫が遺族として年金を受給するためには55歳以上であるか、あるいは一定の障害があることが求められます。一方で、夫が被災者である場合、妻が遺族となるには特別な条件が設けられていません。こうした構造は、男性が主たる家計の担い手であるという時代背景を前提としたものであり、今日の社会においては不合理な性差別とみなされかねない制度設計となっています。

この課題に対して、アメリカでは1980年に連邦最高裁判所が、労災補償保険制度における遺族年金の受給条件に男女差を設けることを違憲とする判決を下しました。この判決を受け、多くの州では州法の改正が行われ、遺族の性別に関係なく、扶養関係をもとに給付が行われるよう制度が整えられました。具体的には、死亡した労働者の収入に依存していた配偶者や子供に対し、週給の約3分の2を基準とした年金が、一定期間または終身にわたり支給されます。

ドイツでは、遺族補償制度が無過失責任に基づく公的給付の一環として運用されており、被扶養者であるか否かを問わず、原則として2年間の寡婦・寡夫年金が支給されます。47歳以上の場合には、年金の支給が無期限に延長されるほか、障害者や子育て中の受給者に対しても特別措置が設けられています。かつて存在した性別による受給条件の違いは、1985年の法改正によって撤廃され、男女平等の原則が制度に反映されました。

フランスにおいては、労災補償制度が社会保障制度の中核を成す制度として位置づけられており、死亡した労働者の年間賃金の40%を基準とした終身年金が遺族に支給されます。55歳以上や就労困難者には最大60%まで引き上げられる制度設計となっており、再婚しても受給権が中断しない場合もあります。制度上は配偶者の性別を問わないとされ、2003年の制度改正により性別に基づく受給要件の差は完全に撤廃されました。

一方、イギリスでは、かつて存在していた労災補償制度に基づく遺族年金は1980年代に廃止され、現在では一般的な社会保障制度の一部として簡素化されています。子供がいる配偶者等には一時金として最大3500ポンドが支給され、月額350ポンドが最長18か月間支給される仕組みとなっており、就労可能な者が再び働き始めるまでの一時的な所得保障という位置づけです。男女による給付条件の違いは1999年の法改正で解消されました。

以上の調査結果から明らかになったのは、欧米各国では遺族年金制度において性別による差を撤廃し、個々の生活状況や扶養関係、就労能力などに基づいて公平な給付を実現している点です。日本の制度が性別による条件を設け続けていることは、国際的な視点から見て見直しが求められる部分といえるでしょう。今後の議論においては、性別に中立な制度設計とすることで、労働者本人のみならず、その家族にも安心感を提供し、制度全体の信頼性向上につながることが期待されます。

⇒ 詳しくは独立行政法人労働政策研究・研修機構のWEBサイトへ

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