2025年11月21日
労務・人事ニュース
労働者の定義を再考、5か国比較で見えた日本の課題
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最終更新: 2025年11月21日 01:01
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労働基準法における「労働者」に関する研究会 第4回資料 資料No1 労働者性に関する国際動向(厚労省)
この記事の概要
厚生労働省が開催する「労働基準法における『労働者』に関する研究会」では、第4回会合で国際的な労働者概念の比較研究が行われた。ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、EUの5つの法体系における「労働者性」の基準や、デジタルプラットフォーム就業者(いわゆるギグワーカー)に対する法的保護の動向が分析された。各国では人的従属性や経済的従属性のバランス、そしてAI・アプリを介した働き方への対応に違いが見られた。
世界各国で進む労働市場のデジタル化に伴い、労働法の根幹である「誰を労働者とみなすか」という定義が再び注目されている。厚生労働省は、労働基準法上の「労働者性」の見直しに向けた議論を行うため、専門家による研究会を設置し、その第4回では国際的な法制度との比較が示された。調査対象となったのはドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、EUの5つの主要法域である。それぞれが異なる法文化や雇用慣行を背景に持ちながらも、共通して「新しい働き方」にどのように対応しているかが焦点となった。
まずドイツでは、労働者の定義は民法典611a条に明文化されており、「他人に指揮命令され、組織に組み込まれた労働」を特徴とする。ここでの判断基準は、業務の自由度や勤務場所の拘束性、具体的な指示の有無といった「人的従属性」に基づく。一方で、完全な自営業ではない中間層の働き方に対しては「労働者類似の者」という法的カテゴリーが設けられ、部分的に保護を受けられる仕組みがある。2020年のクラウドワーカー裁判では、アプリの仕組みを通じた実質的な拘束が「他人決定性」にあたるとして、デジタル就業者にも労働者性を認める判決が下された。ドイツでは依然として人的従属性を重視する姿勢が強いが、プラットフォーム労働をめぐる法解釈には柔軟性が生まれつつある。
フランスは、従来から「人的従属性」を中核に労働契約を定義してきたが、実務上は「経済的従属性」も補完的に考慮されている。つまり、業務の裁量権が少なく、報酬や勤務条件を一方的に決定される関係にある者は、形式的に自営業であっても労働者とみなされることがある。実際、2018年と2020年の裁判で、プラットフォームを通じて配達や運転を行う就業者が「労働者」と認定された。さらに、2019年以降はプラットフォーム事業者に対し、最低報酬の提示や職業訓練支援、社会的責任の明示などを義務づける法改正が進み、AIによる監視的な労務管理に対しても規制が設けられている。
イギリスでは、コモンロー上の「employee」と制定法上の「worker」という二つの概念が存在し、「worker」はより広い範囲の就業者を含む。ライドシェア運転手をめぐる裁判では、報酬設定の一方的決定やアプリ上での行動制約を理由に「worker」と認定された。この判決は契約書上の形式ではなく、実際の業務実態を重視するという方向転換を示している。イギリスでは「経済的従属性」を直接的に法的要件としていないが、裁判実務上は交渉力格差を踏まえた柔軟な判断が行われている点に特徴がある。
アメリカは、法律によって労働者の定義が異なるという特徴を持つ。最低賃金法では「経済的実態テスト」、団体交渉法では「管理権テスト」といった異なる基準が使われ、各制度の目的によって適用範囲が変化する。特にデジタルプラットフォーム労働者をめぐっては、連邦レベルと州レベルで大きなばらつきが見られる。カリフォルニア州では2019年に「ABCテスト」という基準を導入し、実質的に雇用に近い関係で働く者を労働者と推定する方向に転換した。ただし、2020年には住民投票により、一定のギグワーカーを「独立契約者」とする法が成立し、最低報酬などの限定的な保護を与える新たな制度が生まれている。これにより、アメリカでは雇用か自営かという二分論を超えた「第三の働き方」が法的に認められ始めている。
EU全体では、司法裁判所が「労働者概念を広く解する」立場を取っており、2024年にはデジタルプラットフォーム労働者の権利保護を目的とした新指令が採択された。この指令では、労働関係が疑われる場合に雇用関係を推定し、反証責任をプラットフォーム側に課すという革新的なルールを導入している。加盟国は2026年までに国内法を整備する義務を負い、AIによる自動管理やデータ主導型の労務制御にも対応する包括的な仕組みを整えつつある。
こうした国際的な動向と比較すると、日本は「人的従属性」を重視する伝統的な労働者定義に立脚しており、実態として経済的依存関係が強い就業者に対する保護が十分ではないと指摘されている。近年、クラウドソーシングやフリーランスなど、雇用契約に基づかない働き方が急増しており、欧米各国が示すように、契約形式よりも実態に即した柔軟な判断基準を導入する必要性が高まっている。特にEUやフランスのように、経済的従属性やプラットフォーム依存度を要素として考慮する仕組みは、今後の日本の法改正議論において重要な参考となるだろう。
この記事の要点
- ドイツは人的従属性を中心に労働者性を判断し、クラウドワーカー判決で柔軟性を示した
- フランスは経済的従属性も重視し、プラットフォーム就業者を労働者と認定する例が増加
- イギリスは「employee」と「worker」を区別し、実態重視の司法判断が進む
- アメリカは法制度ごとに労働者定義が異なり、州レベルで第三の働き方を法的に位置づけ
- EUは雇用関係を広く推定し、プラットフォーム労働者保護の新指令を採択
- 日本は人的従属性中心の基準を維持しており、経済的依存を考慮した制度改正が課題
⇒ 詳しくは厚生労働省のWEBサイトへ


