2025年12月1日
労務・人事ニュース
熊本県雇用情勢(令和7年10月)有効求人倍率1.13倍が示す課題
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一般職業紹介状況 (令和7年10月分)(熊本労働局)
この記事の概要
令和7年10月の熊本県の有効求人倍率は1.13倍で前月と同水準となり、雇用環境は横ばいの状態が続いている。新規求人数は12,420人で前年同月比4.7%減と6か月連続で減少し、多くの産業で求人抑制の動きが見られる。求職者は3か月連続で増加しており、中小企業は採用競争の構造変化を踏まえた採用戦略が求められる。
令和7年10月に熊本労働局が公表した一般職業紹介状況は、県内の採用環境の実態を多角的に示している。まず注目すべきは、有効求人倍率が季節調整値で1.13倍となり、前月と同水準で推移した点である。資料1ページのグラフを見ると、令和7年春以降の熊本県の求人倍率は一貫して1.13~1.23倍の範囲内で推移しており、大きな変動はない。しかし、その内部では新規求人の落ち込みと求職者数の微増が同時に進んでいることがわかり、採用市場の温度感は決して安定しているとは言い切れない状況であることがうかがえる。
具体的には、有効求人数は32,335人で前月比0.3%増とわずかに増えたが、有効求職者数は28,647人で前月比0.4%増となり、求職者の方が相対的に増加している。これにより求人倍率は横ばいであっても、求人の取り合いという点では企業の優位性が以前ほど強くない状況となっている。正社員に限ると有効求人倍率は1.10倍で前年同月比0.01ポイント低下しており、正社員採用における需給バランスはさらにタイトであることが見て取れる。
新規求人の動向に目を向けると、前年同月比4.7%減の12,420人となり、6か月連続の減少となった。資料2ページには産業別の新規求人数が詳細に整理されているが、ここには現在の熊本県の産業構造変化が影響していることが読み取れる。建設業と卸売業・小売業では増加が見られた一方で、製造業は21.1%減、運輸業・郵便業は4.2%減、宿泊業・飲食サービス業は24.5%減、医療・福祉も0.4%減となっており、主要産業の多くが採用を抑える傾向にある。特に宿泊・飲食業の大幅減は、資源価格上昇や円安によるコスト増、人件費上昇などが影響し、採用を強化しづらい状況にあることが推察される。
製造業の内訳を見ると、輸送用機械器具製造業が22.6%減、電子部品・デバイス製造業が30.9%減と、熊本県の主要製造産業の多くで求人が減少している。その一方でパルプ・紙加工品製造業の150%増や飲料・たばこ製造業の75%増など、特定分野では求人需要が増加している姿も確認できる。ただし、資料5ページの産業別表から読み取れるように、こうした増加業種は求人総数が大きくないため、県全体の求人動向を押し上げるほどの影響力は持っていない。
求職者の動きについては、新規求職申込件数が5,445人で前年同月比4.5%減となり、2か月連続で減少した。一般フルタイムは6.1%減、一般パートも2.2%減となっており、求職者が積極的に職探しを行っていない様子が見られる。一方で、月間有効求職者数は0.4%増となっていることから、職を探し続けている人は増えており、再就職活動が長期化している可能性がある。
さらに、求職者の属性にも変化が出ている。在職者の求職は3.1%減となり、転職市場の動きが一時的に鈍化している。離職者も6.2%減で2か月連続減少となったが、無業者は4.9%増加しており、職探しを再開する層が一定数存在している。この動きは、生活環境の変化や物価上昇、人材不足による採用機会の増加を背景に、就業意欲を持つ人が増えている可能性を示している。
就職件数は1,714件で前年同月比3.1%減となったものの、新規求職者に対する就職率は31.5%で前年を0.5ポイント上回った。資料3ページからわかるように、紹介件数は4,387件であり、企業と求職者の接点そのものは維持されている。これは、採用活動を効率化すれば採用成功の可能性が高まることを意味している。
地域別の求人倍率も、中小企業の採用戦略に大きな影響を与える。資料4ページのハローワーク別有効求人倍率をみると、熊本所が1.32倍、上益城所が0.91倍、八代所が0.92倍、菊池所が1.07倍と、地域ごとに雇用需給が大きく異なる。特に阿蘇所は1.43倍と高く、求人が非常に多いが、水俣所は1.18倍、宇城所は1.08倍など、地域格差が顕著である。採用活動を成功させるためには、この地域差を踏まえたアプローチが不可欠となる。
では、中小企業の採用担当者は、この有効求人倍率の動きをどのように活用し、採用活動を進めるべきなのか。まず重要なのは、求人票の改善を通じて「選ばれる求人」を作るという意識である。採用市場では求職者の動きが鈍く、求人内容を比較して応募する傾向が強まっている。給与や勤務時間などの基本情報に加え、キャリアアップの機会、職場環境の改善、柔軟な働き方への対応など、求職者が具体的に魅力を感じる要素を明確に示すことが求められる。
次に求められるのは、採用スピードの強化である。新規求人倍率が2.28倍と高いことは、求人に対して応募者が相対的に少なく、求職者が複数企業を比較検討している状況を示す。資料からもわかるように、フルタイム・パートタイムともに求職者数は減少しており、応募が入った際には迅速に対応しなければ、競合企業に人材を持っていかれる可能性が高い。
さらに、地域ごとに採用難易度が異なるため、採用対象とするエリアを広げることも効果的である。たとえば、宇城所や八代所の求人倍率が1倍前後であることを踏まえれば、これらの地域は求職者が比較的多いエリアであり、求人を出すことで応募につながる可能性が高い。一方で、阿蘇や熊本市のように求人倍率が高い地域では、採用競争が激しいため、待遇改善や働き方の柔軟性を強化するなど、差別化の工夫がより重要になる。
また、産業別データからは、建設業や小売業で求人が増加傾向にある一方、製造業や宿泊業では大幅な減少が見られるため、業種によって採用戦略を柔軟に変更する必要がある。製造業では技術職人材の確保がますます難しくなる可能性があるため、若年層の教育・育成を前提にした採用や、未経験者を受け入れる制度構築が効果的となる。
総じて、熊本県の雇用環境は求人倍率自体は安定しているものの、その内側では求人減少と求職者属性の変化が進んでおり、中小企業にとって採用活動の難易度が高まっている。だからこそ、求人内容の質、採用スピード、地域差の活用、求職者属性の理解といった要素を戦略的に捉え、データに基づいた採用活動が求められる。
この記事の要点
- 令和7年10月の熊本県有効求人倍率は1.13倍で横ばい
- 新規求人数は4.7%減で6か月連続減少
- 製造業や宿泊業で求人が大幅減少
- 正社員求人倍率は1.10倍で前年同月比低下
- 求職者の増加で採用競争は継続、採用の迅速化が必須
- 地域ごとに求人倍率の差が大きく採用戦略の最適化が重要
⇒ 詳しくは熊本労働局のWEBサイトへ


