2025年12月1日
労務・人事ニュース
福岡県の有効求人倍率1.07倍(令和7年10月)採用難の中で光る中小企業の工夫
雇用情勢(令和7年10月分)について(福岡労働局)
この記事の概要
令和7年10月の福岡県における有効求人倍率は1.07倍となり、前月を下回る結果となった。有効求人数は前年同月比で9%以上減少し、企業の採用意欲には慎重な姿勢がみられる。一方で、新規求職者は大きく増えていないことから、中小企業の採用環境はなお厳しい状態が続く。本記事では、雇用統計の詳細を踏まえ、中小企業の採用担当者がどのように戦略を見直すべきかについて専門的視点で解説する。
令和7年10月の福岡県の雇用情勢は、慎重な見方を要する局面に入っている。福岡労働局が公表した資料によると、有効求人倍率(受理地別・季節調整値)は1.07倍となり、前月から0.03ポイント低下したことが明らかになった。この数値は、求人が求職者を上回る状態ではあるものの、直近の推移を見ると弱含みの傾向が強まっており、採用市場における企業側の動きが慎重になっていることを示している。実際、有効求人数は前年同月比で9.2%減少し、新規求人数も同11.6%減少したことから、企業側の募集枠そのものが縮小している様子がはっきりと読み取れる。
産業別の変化を見ると、製造業、金融業・保険業、運輸業が前年同月比で増加に転じており、年度を通じて一定の採用需要が存在している。一方、宿泊業・飲食サービス業が15か月連続の減少、情報通信業が8か月連続の減少となるなど、サービス業を中心に求人減少が続いている。中小企業にとって重要な領域である卸売・小売業でも前年同月比で減少が見られ、地域の経済活動の鈍化が採用現場に影響していることがうかがえる。
新規求職者の動向を見ると、全体は前年同月比で1.4%減少し、大幅な増加には至っていない。男性は微増したものの、女性は3.4%減少しており、求職者の属性によって動きが異なっている点も特徴である。また、年齢別では30~44歳の新規求職者が前年同月比で増加した一方、45~54歳は5.2%減少するなど、企業が求める即戦力層とのミスマッチも想定できる。中小企業が幅広い年代層に期待を寄せる採用戦略において、このような年齢構成の変化は無視できない指標である。
地域別の有効求人倍率をみると、福岡地域は1.14倍、北九州地域は0.97倍、筑豊地域は0.97倍、筑後地域は1.13倍となり、すべての地域で前年同月を下回る結果となった。特に筑豊地域の低下幅は0.35ポイントと大きく、地域経済による格差が採用活動にも影響を及ぼしていると言える。地域間の移動が起きにくい中小企業の採用現場では、地域別の倍率を把握することが、採用成功率の予測に直結する。
こうした雇用環境を踏まえると、中小企業の採用担当者が取るべき行動は従来よりも戦略的かつ迅速である必要がある。有効求人倍率が1.07倍という数字は、見方によっては採用しやすい環境を示すが、求人数が減少している現状では、応募者が増えるとは限らない。求職者の絶対数は大きく変化しておらず、企業間の競争は依然として存在するため、求人内容の魅力を高め、応募者に選ばれる求人づくりが不可欠となる。
まず、中小企業が注力すべき点は、求人票の質の向上である。求職者は短時間で情報を比較し、応募先を取捨選択する。待遇に加え、働く環境やキャリアステップ、研修制度など、求職者が納得して応募できる情報を明確に記載する必要がある。今回の統計では、正社員有効求人倍率が0.87倍と前年同月を下回っており、正社員希望の求職者数が高い一方、企業側が提示する正社員の枠は相対的に少ない状態である。このギャップを埋めるには、正社員採用を強化したい企業は労働条件を見直し、働き方の柔軟性をアピールしていくことが効果的である。
次に、採用担当者は「採用ターゲットの再定義」が求められる。年齢別の動向では30~44歳の求職者が増えていることから、この層へのアプローチが成果につながる可能性が高い。また、55歳以上の有効求職者が前年同月比で増加している点は、シニア人材の活用余地が広がっていることを示している。中小企業では即戦力を求める傾向が強いが、教育・育成環境が整っている企業であれば、幅広い年齢層を採用対象に含めることで採用機会を広げられる。
さらに、採用スピードの迅速化も重要である。有効求人倍率が低下している状態でも、人気の業種や条件の良い求人には応募が集中するため、選考が遅れると採用機会を逃す可能性が高い。書類選考や面接の日程調整にかかる時間を短縮し、応募後すぐにコミュニケーションを取る体制を整えることで、応募者の離脱を防ぐことができる。
また、地域別の求人倍率を活用した採用方法も有効である。例えば、求人倍率が相対的に低い北九州や筑豊地域からの採用を強化することで、自社の人材確保の幅を広げられる可能性がある。テレワークやハイブリッド勤務の導入により、勤務地が柔軟に設定できる企業であれば、地域間の採用差を逆にチャンスと捉えることができる。
今回の統計からは、求人減少と求職者増加が同時に起きているわけではなく、むしろ採用難の構造が続いていることが分かる。中小企業は単に求人を出すだけではなく、企業としての魅力発信、迅速な選考対応、柔軟な労働環境づくりなど、多面的な取り組みが求められる。市場が弱含みとなる今こそ、これらの改善に取り組むことで、採用の成果が出やすくなる時期であると言える。
この記事の要点
- 福岡県の令和7年10月の有効求人倍率は1.07倍で前月より低下
- 新規求人数は前年同月比11.6%減で企業の採用意欲が鈍化
- 求職者数の大幅増はなく採用難は継続
- 30〜44歳と55歳以上の求職者が増加しターゲット再設定が有効
- 求人票の情報充実とスピード採用が中小企業の重要施策
- 地域別倍率の差を活用した採用戦略が必要
⇒ 詳しくは福岡労働局のWEBサイトへ


