2025年12月22日
労務・人事ニュース
33年ぶり高水準の賃上げでも家計が実感できない理由
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最終更新: 2025年12月21日 09:35
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最終更新: 2025年12月21日 09:05
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最終更新: 2025年12月21日 16:42
Economic & Social Research No.50 2025年 秋号(内閣府)
この記事の概要
2024年度の名目賃金が1991年度以来となる3%の上昇率を記録し、2025年も賃上げの momentum が続く一方、家計が賃金上昇を実感できていない状況が課題となっている。令和7年度経済財政白書では、人手不足下での賃金の伸び、世代による賃金経験の差、勤続年数と賃金カーブの変化、賃金の下方硬直性と上方硬直性が分析され、持続的な賃金上昇を社会に定着させるための論点が示された。
2024年度の名目賃金が前年比3%の伸びとなり、1991年度以来33年ぶりの高い水準を記録した。人手不足が続く環境に加え、価格転嫁の動きや政策的な後押しも重なり、賃上げの動きが広範に浸透し始めている。2025年の春の交渉においても前年度を上回る賃上げ率が示されており、これまで長く停滞していた賃金の流れに変化が生じている。ただ、その一方で、家計への調査結果をみると、収入増加を実感する人は限定的であり、消費の回復が賃金の伸びに比べて弱いまま推移している点が大きな課題となっている。
家計消費の回復には、賃金が今後も継続して伸び続けるとの見通しが広く共有されることが不可欠である。いわゆる賃上げのノルムが定着しなければ、購買行動は慎重になり、所得の増加が消費に十分結びつかない状況が継続しやすい。令和7年度経済財政白書第2章では、この課題を踏まえ、賃金上昇の広がりや長期的な賃金構造の変化、そして賃金の下方硬直性と上方硬直性と呼ばれる現象に焦点が当てられた。
まず注目されるのが、産業ごとの人手不足感と賃金の伸びの関係である。本来、労働需給が逼迫する業種では賃金が上昇しやすく、逆に余裕があれば賃金の伸びは抑制されやすい。しかし実際には、人手不足感が強いにもかかわらず賃金が伸びにくい産業が存在する。資料では医療・福祉、建設、情報通信などが例として挙げられ、これらの領域では生産性や成長期待の差、求められるスキルの特性、さらには制度面の制約など、市場のメカニズムだけでは調整できない要因が存在している。こうした構造的要因が賃金の伸びを鈍らせ、賃上げの実感を持ちにくくしている可能性が指摘されている。
また、世代間で賃金経験に大きな差が生じている点も重要だ。白書では、20代前半の賃金水準を基準に将来の賃金カーブを予測した「事前想定賃金」と、実際にキャリアの中で得られた「事後経験賃金」を比較している。この分析によると、1965〜69年生まれの層では実際の賃金が想定を上回る形で推移した一方、1970年代前半以降の世代では長期にわたり想定を下回る賃金推移となっていた。期待していた昇給を得られなかった経験が蓄積した結果、現在の賃上げが続くという見通しに対する確信を持ちにくい状況にあると考えられる。
勤続年数と賃金カーブの変化も、賃金上昇の実感不足に影響している要因のひとつである。我が国では長く勤続すれば賃金が上昇する傾向が強いとされてきたが、白書の分析では2009年から2024年にかけて賃金カーブが徐々にフラット化している。とくに新卒から同じ企業に勤め続ける労働者の賃金上昇の幅が縮小し、かつてのような年功的な上昇が得られない状況が見られる。この変化は転職が難しい層を中心に、賃金上昇の恩恵を感じにくくする結果につながっているとみられる。
さらに、賃金の下方硬直性と上方硬直性も賃上げの持続性を左右する重要な要素である。下方硬直性とは、景気が後退しても賃金が大きく下がりにくい現象を指し、心理的な要因から名目賃金がゼロ以下に下がりづらい傾向がある。2024年の賃金上昇率の分布を見ると、0%を境に非対称な形が確認され、下方硬直性の影響が依然として存在していた。ただし、近年は賃上げの広がりによって0%近辺に位置する労働者の割合は低下し、硬直性の度合いはやや弱まっている。
一方、下方硬直性には副作用として上方硬直性が生じる。これは景気の回復局面で企業が過去の賃金抑制を埋め合わせようとせず、さらなる経営リスクに備えて賃上げを抑制する姿勢を指す。白書では2020〜22年の動きを分析し、下方硬直性を経験した労働者の方が翌年にやや高い賃金上昇率を示したことが確認されたが、その効果は2022年時点でほぼ解消していた。過去の危機時と比べると、上方硬直性の影響が相対的に小さくなり、賃金上昇が広がりやすい環境が生まれている可能性が示された。
これらの分析から浮かび上がるのは、賃金の伸びが家計の期待や行動に十分影響を与えるには、実感を伴う広がりと持続性が不可欠であるという点である。人手不足が続き、賃上げの動きが広がる中で、賃金構造の変化や、世代間の経験の差、さらには硬直性といった複合的な要因が実感の形成を妨げている可能性がある。今後は、賃上げを進めるだけでなく、賃金の伸びが労働者に確かな期待として共有され、消費の回復につながる環境づくりが重要になる。
この記事の要点
- 賃上げは33年ぶりの高水準だが家計は実感しにくい
- 人手不足でも賃金が伸びにくい産業の存在
- 1970年代生まれ以降は賃金が想定を下回り続けている
- 勤続による賃金上昇がフラット化し実感を得にくい
- 賃金の下方硬直性と上方硬直性が依然として影響
⇒ 詳しくは内閣府のWEBサイトへ


