2026年3月14日
労務・人事ニュース
2026年2月27日公表、2,321社と354社の分析で判明した賃上げ拡大
人への投資と企業戦略に関するパネル調査(JILPT企業パネル調査)(第3回)(JILPT)
2026年2月27日、人への投資と企業戦略に関するパネル調査の第3回結果が公表された。本調査は2022年から毎年度1回実施されている企業パネル調査であり、同一企業を継続的に追跡することで、人材戦略の変化が経営や労働市場に与える影響を把握することを目的としている。
今回の取りまとめでは、第3回調査の集計結果を示すとともに、近年の物価上昇局面で注目される企業の賃上げ動向に焦点を当て、第1回調査との比較を通じて変化を整理している。継続的なデータに基づく分析である点が本調査の大きな特徴である。
調査は中小企業を対象としたウェブモニター調査と、大企業を対象とした郵送調査によって実施された。第3回調査は2024年9月2日から11日および10月1日から16日にかけて中小企業を対象に行われ、大企業調査は2024年9月20日から10月18日に実施された。有効回収数は中小企業2,321社で有効回収率は56.8%、大企業は354社で34.8%であった。
人材の過不足感については、中小企業、大企業ともに人手不足感が強い状況が続いている。特に正社員で不足感が強く、デジタル化を担う人材や現場の技能職、サービス職、販売職などで不足が顕著である。人材確保策として最も重視されているのは「求人募集時の賃金を引き上げる」であり、その上昇幅が最も大きい。
人材マネジメントの面では、中小企業では非正社員に対するハラスメント防止対策や仕事と育児・介護・治療の両立支援の取組が進展している。大企業では非正社員のメンタルヘルス向上に加え、正社員に対する企業理念浸透のための対話や定期面談、職種別賃金の導入などが進んでいる。
人材育成については、大企業の方が研修受講者割合は高いものの、中小企業、大企業ともに全体として受講者割合は拡充傾向にある。デジタル技術の活用では依然として企業規模による差があり、大企業の方が積極的である。AIを活用した技術導入や検討も両者で進展しているが、将来認識を含めた格差は拡大している。
在宅勤務制度は中小企業では大きな変化がない一方、大企業では「導入していない」とする割合が上昇している。副業・兼業を認める企業は両者で増加傾向にあり、独立開業支援は横ばいで推移している。
賃上げの実施状況を第1回と第3回で比較すると、中小企業、大企業ともに賃上げ実施企業は拡大している。具体的な取組では「ベースアップ」や「新卒者の初任給の増額」の実施割合が上昇している。
中小企業では第1回調査時点で「定期昇給のみ」が29.3%と最多であったが、第3回では「ベースアップ+定期昇給」が19.2%、「ベースアップ+定期昇給+賞与増額」が17.4%と構成が変化している。大企業では第3回で「ベースアップ+定期昇給」が39.0%と最も高く、「ベースアップ+定期昇給+賞与増額」が27.5%となり、ベースアップを含む組み合わせが主流となっている。
過去3年度の正社員の平均的な賃上げ率を見ると、2022年度から2024年度にかけて中小企業、大企業ともに上昇傾向にあり、分布は高水準側へシフトしている。
クロス集計では、2022年に計画的・系統的なOJTやOff-JTを実施していた企業の方が、2023年度および2024年度に賃上げ率が高い傾向が確認された。AIを活用したデジタル技術を既に導入、あるいは何らかのアクションを起こしている企業も、賃上げ率が相対的に高い水準にある。
財務指標との関係では、2023年度の従業員1人当たり営業利益が上位の企業では、2024年度の賃上げ率で5%以上の区分が49.7%を占め、下位企業の32.0%を上回っている。中央値も上位企業で4.9%、下位企業で3.0%と差がみられる。
プロビットモデルによる分析では、前年度にOff-JTを実施している企業は賃上げ実施確率を有意に押し上げている。能力開発費支出ありの企業も賃上げ実施確率を高めている。研修受講者比率が60~80%未満の企業では限界効果が0.129と高い値を示している。
一方、デジタル技術の利用ダミー自体は賃上げ実施との明確な関連が確認されなかった。ヘックマン2段階推定では、能力開発費比率の対数が0.136と正で有意な関係を示し、年間研修時間10日以上の企業では係数が0.152と有意である。
これらの結果は、人材育成への継続的かつ集中的な投資が、賃上げの実施有無だけでなく、その引き上げ幅とも関係している可能性を示唆する。労働組合の存在も賃上げ実施確率や賃上げ率と正の関係が確認されている。
本調査は、パネルデータを活用し、人材育成と賃上げ行動の関係を実証的に示した点に意義がある。持続的な実質賃金の改善に向けて、生産性向上と賃上げを一体的に捉える視点の重要性が改めて示された。
⇒ 詳しくは独立行政法人労働政策研究・研修機構のWEBサイトへ


