労務・人事ニュース

静岡県内の最近の雇用情勢（令和７年５月分）

令和7年5月に静岡労働局が発表した最新の雇用情勢によれば、静岡県内の有効求人倍率（季節調整値）は1.08倍と、前月より0.01ポイント上昇しました。この数値は全国平均の1.24倍を下回っており、都道府県別順位では39位という結果です。つまり、全国的に見れば静岡県は比較的採用がしやすい環境にあると見なされがちですが、実際にはその背後に複雑な労働市場の動きが隠れています。企業の採用担当者がこの数値を単なる目安とするのではなく、地域特性や業種別動向を踏まえた採用戦略を考えることが求められます。

有効求人数は69,499人、有効求職者数は64,396人で、求人数がわずかに上回っている状況です。しかしながら、新規求人数は19,439人、新規求職者数は10,242人と、いずれも前月から減少しており、特に新規求職者数は3.2％の減少を示しました。これは、求職者側の就職活動がやや鈍化していることを示唆しており、企業にとっては「人が動きづらい」時期であるとも言えます。採用活動を展開する際は、このような労働市場の機微を読み取り、ただ求人を出すのではなく、求職者の心理や生活環境に寄り添った採用施策を考えることが鍵になります。

静岡県における新規求人倍率は1.90倍と、前月比0.01ポイントの増加が見られました。この水準は新たに仕事を探し始めた求職者1人に対して、ほぼ2件の新規求人が存在するということを意味しており、特に中小企業や地方の事業者にとっては人材確保の難しさを痛感する結果となっています。求人倍率が2倍に迫る水準で推移している中で、従来のように経験やスキルを重視しすぎた採用基準では、採用成功率を下げる恐れがあります。むしろ、ポテンシャルや適性を重視した採用、入社後の育成体制の充実といった視点からのアプローチが、今後ますます重要になるでしょう。

また、正社員の採用においても課題は多く、正社員有効求人倍率は1.16倍と、引き続き1倍を超える水準を維持しています。つまり、企業が正社員を必要としている一方で、正社員としての就業を希望する求職者の数がそれに追いついていない現状が浮き彫りになっています。この状況では、企業は採用プロセスの中で求職者のライフステージや働き方に対する希望を丁寧に聞き取り、柔軟な勤務形態の提示やキャリア支援制度の整備を通じて、入社後の定着を図る必要があります。

業種別に見ると、製造業や建設業、医療・福祉といった分野では引き続き高い求人需要が見られる一方で、宿泊・飲食業など一部サービス業では求人件数がやや停滞傾向にあります。特に地方都市では若年層の流出や高齢化の影響を受け、働き手の確保が一層難しくなっています。こうした地域的課題に対応するためには、地元人材の採用と育成を強化するほか、移住支援制度や企業独自のインセンティブを導入するなど、多角的なアプローチが求められます。

さらに、採用活動においては、企業の「選ばれる力」が試される時代になっています。給与や労働時間といった基本条件だけでなく、職場の雰囲気、上司や同僚との関係性、成長機会の有無、働きがいといったソフト面も求職者にとって重要な選択基準となっています。そのため、企業の採用担当者は、自社の特徴や魅力を的確に伝える採用広報の在り方を見直すとともに、従業員満足度を高める職場環境づくりに日頃から注力する必要があります。

特に静岡県のように、産業構造が多様で都市部と地方の格差が存在する地域においては、エリアごとの特性を活かした採用戦略が有効です。たとえば、静岡市や浜松市のような都市部では高度なスキルや専門性を有する人材の確保が焦点となる一方で、中山間地域では地域密着型の採用や定住促進が大きなテーマとなります。地域ごとの課題と強みを明確にしたうえで、地元に根ざした採用活動を展開することが、長期的な人材確保と地域経済の活性化に直結するのです。

また、企業にとって忘れてはならないのが、採用活動におけるスピード感です。現在のように求人倍率が高い状況では、求職者が複数の企業に同時に応募することはもはや当たり前であり、選考プロセスのスピードが遅いだけで他社に人材を取られてしまうリスクがあります。書類選考から面接、内定提示までのプロセスをできる限り効率化し、迅速かつ誠実な対応を心がけることで、求職者との信頼関係を築き、入社意欲の向上に繋げることが可能です。

静岡県の令和7年5月における有効求人倍率1.08倍というデータは、表面的には比較的採用しやすい環境のように見えるかもしれませんが、実際には多くの企業が人材確保に苦戦している現実があります。だからこそ、データを鵜呑みにせず、その背景にある社会的・経済的要因を理解し、企業独自の視点から柔軟かつ実効性のある採用活動を展開することが、これからの人材戦略において極めて重要な取り組みになると言えるでしょう。

⇒ 詳しくは静岡労働局のWEBサイトへ